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【ブックforever#13】『跳びはねる思考』東田直樹著

[ブックFOREVER] 2016年12月19日
あなたの世界観を根底から変える、世界20か国以上で翻訳される日本のベストセラー作家。
ブックソムリエ鍋島です。

東田直樹という作家をご存じでしょうか。
私は「無知は罪」という言葉を基本的には信じない主義ですが、最近NHKでこの作家の特集番組をやっていて、恥じました。
この人のことについていまのいままで知らなかったことを。なぜ知らなかったのだろう??
それは自分のマインドが曇っていたせいだとしか思えないくらい、衝撃の作家でした。

20以上の言語に翻訳された東田直樹の出世作は英語版で”The Reason I Jump"です。
直訳すると「僕が跳びはねる理由」です。今日ご紹介する『跳びはねる思考』はいわばその続編のエッセイ集です。

東田直樹が扱うテーマは、ざっくり言うと「対話の断絶と再接続」とでも言うべきでしょうか。
みなさんはご自身が他者に「理解されている」と感じているでしょうか?
他者のまなざしはときに自分の意図せざる自分に向けられます。
それは容姿?肩書?あるいは態度や行為?たまたま持っていたもの?
私にもコントロールが効かない「私」に向けられたまなざし。それがゆえにコミュニケーションは断絶してしまうということはないでしょうか。

東田直樹はコミュニケーションの断絶を、自身の心情を丁寧に、噛んで含めるように私たちに伝えることによって、私たちが素通りさせたまなざしを再接続する機会を与えてくれます。

一節を引用してみよう。

「何かにすがりたいという気持ちはみんな持っていると思います。だからお守りやパワーストーンを身につけたり、縁起をかついだりするのでしょう。ぼくはそういうことにあまり興味はありませんが、心の安定のためにしていることがあります。それは電子レンジのドアを開けて、すぐにパタンと閉じることです。まったく意味のない行為ですが、一日に何度もこれをやってしまいます。
 きっかけは些細なことです。もう何年も前になりますが、電子レンジでご飯を温めて取り出したあと、電子レンジのドアがうまく閉まらず、もう一度やり直したことが事の始りです。その時のきちんとしまった感覚に、はまってしまいました。
 電子レンジのドアが閉まる音を聞くと、気持ちいいというより、すっきりするのです。ひと仕事終わった時のように、ほっとします。
 人から見れば、ばかばかしい行為にしか見えませんが、ぼくにとっては重要なことです。」

 私たちは日ごろ、他人の行為をどれほど「ばかばかしい」として見過ごしていることでしょうか。
 むろん、いちいちすべての行為にかかずらっていたのではきりがありません。とはいえ、自分の行為をばかばかしと打ち捨てられることに傷つくことも確かでしょう。
 そんな日常の齟齬を、東田はとても「適切」に拾ってきてくれます。なんてことはないように見えることがらのなかに「あっ。」という気づきを、優しく置いて行ってくれる、という感じです。

 私は東田直樹の作品を通じて、まったく世界観が変わったと言っても過言ではない体験をしました。
 その1冊をぜひあなたにも。

 了

『跳びはねる思考』東田直樹、イーストプレス、2014年。