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【ブックレビュー#32】『プラナカン 東南アジアを動かす謎の民』太田泰彦著

[ブックレビュー] 2018年08月10日
以前、日経新聞に色鮮やかな写真を用いた特集が組まれたことがある。
中華風の柄なのに、いわゆる中華系の強い色調ではなく、ピンクや水色などパステルカラーで彩られた可愛らしい雑貨たち。
明らかに中華系の装飾なのに、中華だけではない何かを感じさせ、シノワズリのそれとも違う。この可愛らしい美意識は誰のものなのか?
その答えが「ペラナカン(プラナカン)」である。


マレー語で「この地で生まれた者」を意味する「プラナカン」は、15~16世紀に中国からマレー半島にやってきた男たちと現地の女性の間に生まれた子ども達の子孫。
彼らは、自らに流れる血の如く、父親のルーツである中華系の文化を、自分たちの住まう土地にうまく馴染ませ育んできた。
ルーツやコミュニティにより定義される彼らは、国境に縛られることなく、東南アジアを中心に、果てはオーストラリアにまで根を張り暮らしている。
「プラナカン」と言う看板を、日本人の我々が目にすることはほとんどない。
驚く事に、プラナカンの家庭に育ちながら、自身がプラナカンであると知らずに過ごす人もいるらしい。
「友達の家庭と何かが違う」そんな違和感が、自分の中のプラナカンを発見する糸口になるそうだ。




本書は、先述の特集を手掛けた日経新聞の太田泰彦氏が、シンガポール赴任中に取材を重ねた「プラナカン」のルポルタージュである。
「東南アジアの歴史や経済を牽引してきたプラナカン」などと言うと、なんとなく堅苦しい感じがするが、本書では、さまざまな切り口から彼らにアプローチし、謎に包まれたベールの内側をなんとか覗き見ようとする著者の好奇心が随所に感じられる。
丁寧な取材の中に、感性を大切にした「とっつきやすさ」を織り交ぜ、平易な言葉で綴られる本書は、東南アジアの入門書としても楽しめる。

「ペラナカン」ではなく「プラナカン」の表記を採用した理由について、さんざん現地で発音の検証をしておきながら、「なんとなく可愛い感じがする」と「プラナカン」を採用したと明かすコラムには、著者の人柄が垣間見え一読者として親近感を感じる。
そして実際に現地ではなんと発音されているのか、ちょっと聞いてみたくもなる。


もしあなたが、東南アジアへ旅する予定なら、飛行機の中で本書を読んでみて欲しい。
また、これから旅行先を検討するのならば、ぜひ本書を先に読んでみて欲しい。

「プラナカンの歴史や経済から未来を生き抜く哲学を学びたい」
「高い美意識や繊細な料理など、プラナカンの文化に触れたい」

そんな欲求がふつふつと湧いてきて、きっと「プラナカン」を巡る旅がしたくなるはずだから。