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【ブックレビュー#9】『ピダハン「言語本能」を超える文化と世界観』ダニエル・L・エヴェレット 著 屋代通子 訳

[ブックレビュー] 2016年01月26日
「右と左」の概念がない。神話を持たない。そんな人々を想像できますか?

本のタイトルにある「ピダハン」とは、アマゾンに住む少数民族です。

上記のように、私たちが「ないことがあり得ない」と思っている事柄の多くを持たないピダハン。彼らは西洋人と遭遇して200年余り経ってもなお、その独自の文化を保ち続けています。

 

著者のダニエル・L・エヴェレットは、キリスト教の伝道師としてピダハンの村へ赴きます。

当時、ピダハンの言葉は解読が進んでおらず、ダニエルは簡単なポルトガル語のほかには、ピダハンとの共通言語を持たない状態で彼らの言葉の解読に挑みます。

 

彼らについて興味深い話を挙げればきりがありません。

例えばピダハンは自ら希望して何か月勉強をしても、簡単な足し算すらできるようにはなりません。彼らの欲しがるモノの作り方を教えても、再び自分で作ることはありません。それは、彼らが無能で怠け者だからではなく、新たな文化の流入を潜在的に拒んでいるからです。

そして、ピダハンは自分たちの文化が何よりも優れていると確信しています。その確信は発達して文明社会を自分の目で見ても揺らぐことがありません。いつも楽しそうに笑っていて、満ち足りた日々を過ごしているのです。

 

この本は、ピダハンと暮らしたダニエルの奮闘記であるとともに、言語学の本でもあります。第二部の「言語」にも多くのページを費やしています。

未知の言語はダニエルによって英語で説明され、それを訳者の屋代通子氏が日本語に変換することで、私たちはピダハン語を知ることができたのです。

それぞれの言語の制約を受けながらの、素人にわかるレベルにまで翻訳するというのは並大抵のことではないと思います。アマゾンに挑んだダニエル、二つの言語に挑んだ屋代氏、どちらの偉業にも頭が下がります。

(見習いブックソムリエ 島村)