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【ブックレビュー#15】『鹿の王』 上橋菜穂子 著

[ブックレビュー] 2016年03月08日
土の匂いのするファンタジー。上橋菜穂子の作品に触れるといつもそんなことを思います。

作品の中に文化がしっかりと息づいているように感じられるのは、著者の持つ文化人類学者というもうひとつの顔からやってきているのかもしれません。


ファンタジーと言えば少年少女の冒険譚と思いがちですが、「守り人」シリーズ、「獣の奏者」シリーズなど、彼女の作品ではしばしば中年と言っていい歳の男女が主人公を務めます。
 
この『鹿の王』でも主人公は妻子を失った男。家族を失い、死に場所を求めて戦っていた男が、拾い子を育て、いつくしみながら再生していく、その甦りの物語には、少年少女の若さあふれるストーリーでは決して味わうことのできない深い味わいがあります。
 
そしていずれの主人公も芯が強くたくましい。年を重ねたことによる影や深みを持ち合わせていて、読む人の心をつかみます。子供の頃に憧れた物語の中のオトナたちは、大人になった今でもお子枯れの対象として色褪せません。



また、この作品では医学が大きな主題として扱われています。

土着の病や、それに耐性のある人・ない人、食生活など、ひとつの病気をめぐって出てくる様々なエピソードに「産土(うぶすな)」または「産土神(うぶすながみ)」という言葉を思い出しました。

 

近頃、昔ながらの生活習慣が見直されています。私たちが何気なく食べている物や、習慣にしている事にも、実は大きな意味があるのかもしれません。自堕落な生活を少しだけ反省。

 

(見習いブックソムリエ 島村)