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【ブックレビュー#18】『家守綺譚』 梨木香歩 著

[ブックレビュー] 2016年03月29日
不思議な話が好き。でも、怖い話は夢に見そうだから嫌い。
夢に出てきたら嬉しい、きらきらとした不思議な話が読みたい。

そんな私の大好きなお話を紹介します。



『家守綺譚』の主人公は、駆け出しの文筆家。
今は亡き友人の父親の依頼で、住む人のいなくなった彼の実家の家守をしている。
そんな「家守」が出会う、不思議な出来事が植物の共に綴られます。

たとえば、庭のサルスベリに懸想されたり、池に河童が現れたり、木蓮に雷が落ちたと思ったら枝が雷の子を孕んだり。そして亡くなったはずの友人は、掛け軸の中から船に乗って当たり前のように会いに来る。

主人公の身の回りでは、不思議なことが当たり前のように次々と起こります。
彼は曰く現実的な人物だそうなのですが、周囲の多くの人に守られ(飼い犬にまで守られているのです!)、不思議だらけの日常を超然と過ごしています。
登場人物の目線はいずれも優しく、その優しさが、シャボンの泡の膜のように物語全体を包みこむ魔法をかけているように感じます。

物語の時間も場所もはっきりとは分からない。
けれどもなんとなく100年ほど前の、滋賀と京都の県境あたりだと、ぼんやりと分かる。
そんな現実と非現実、具象と抽象のはざまを縫うようにして読み進める感覚がたまらなく心地よいのです。


(見習いブックソムリエ 島村)