本の部屋Blog

【読書にまつわるエトセトラ #1】思い込みとはオソロシイ

[読書にまつわるエトセトラ] 2016年01月31日
こういう勘違い、皆さんひとつやふたつは持ってますよね?
玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば

  忍ぶることの よわりもぞする

 
下戸ばかりの我が家では、夜に大人たちがお酒を飲んで過ごすことは稀で、しばしば家族でカルタ取りをして遊んだ。正月ともなれば、伯父や伯母も巻き込んで盛り上がった。
遊びから入ったものだから、和歌の一つひとつの意味は知らない。ただ知らないなりに「こんな意味なのかな?」とイメージを膨らませた。
そうした中で、大いに誤読していたのが冒頭の一首。

カルタに描かれた式子内親王の絵と「忍ぶる」「よわり」の響きに、「か弱いお姫様が、つらい目にあって頑張って我慢している歌」だと勝手に夢想していた。

正しくは「わが命よ、絶えるなら絶えてしまえ!」という激情をはらんだ恋の歌。勝手なイメージで「絶える」と「耐える」を読み違えたのだ。正しく理解したのは大人になって、吉海直人先生の著書『こんなに面白かった「百人一首」』を読んだ時。

目の前にある漢字が長年ちゃんと読めていなかった自分がおかしかった。人間の思い込みとは、いやはや恐ろしい。

そして、思い込みがさらに恐ろしいのは、子供の頃に作り上げた「か弱いお姫様」のイメージがいまだに取れないこと。

この和歌を目にすると今でも、辛いことに耐えているちょっと陰気なお姫様がふと浮かびあがってくる。このイメージはきっと一生取れないと思う。よそでうっかり口にしては赤っ恥。気を付けなくては。

 
※補足.吉海先生は母校の大学教授ですが、著書にはとてもライトな切り口のものもあります。『こんなに面白かった「百人一首」』もその1つ。ちなみに最新作は『図説 どこから読んでも想いがつのる! 恋の百人一首』


(島村瑞穂)