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【ブックレビュー#25】『宇喜多の捨て嫁』木下昌輝 著

[ブックレビュー] 2016年05月24日
【ブックレビュー#25】『宇喜多の捨て嫁』木下昌輝 著
 
「高校生直木賞」という賞をご存知ですか?
過去1年の直木賞候補作品から、高校生たちが独自の視点で自分たちの直木賞を決めるというものです。3年前に『オール讀物』の企画としてスタートし、選考参加校は、第1回が4校、第2回目が12校、そして第3回目の今年は19校と着実にすそ野を広げています。
 
お手本は、フランスの高校生ゴンクール賞。こちらは読書教育の一環として四半世紀にわたり続く賞です。毎年2000人以上のフランスの高校生が参加し、ゴンクール賞の候補作の中から自分たちの視点で1冊を選びます。
 
その「高校生直木賞」の第2回目の受賞作がこの『宇喜多の捨て嫁』です。



「捨て嫁」という衝撃的なタイトルと、「高校生直木賞受賞作」という興味深い肩書で、OBPアカデミアがオープンしてからずっと気になりつつ、なかなか手の付けられなかった本でした。
  
「これは落ち着いたときにじっくり読もう」なんて思っていたのです。
でも、読みだしたらあっという間でした。面白い本というのはいつもこうですね。
 
先週紹介した本で横尾忠則さんが、多くの本は残りのページ数が少なくなると嬉しいけれど、お気に入りの1冊だけは残りのページが少なくなるのが残念だったという趣旨の話を述べておられました。
 
まさに『宇喜多の捨て嫁』は残りのページが少なくなっていくのが惜しい本でした。
というのも、加速度的に面白くなるのです。
 
『宇喜多の捨て嫁』というタイトルから、武将の娘が主人公の小説だと思って読み始めたのですが、捨て嫁が主人公だったのは冒頭だけ。真の主人公は、その父である宇喜多直家。
岡山とその周辺を舞台に、謀略と裏切りに満ちた戦国時代を生きる男の姿を描きます。
  
冒頭の「宇喜多の捨て嫁」で描かれる宇喜多直家は文字通り怜悧で非情。業病を患い、娘にも憎まれる、醜い男に見えます。
しかし読み進めていくうちに、彼がなぜそのような有様でいるのか、周囲の評価がどのようにして出来上がったのかが分かります。腐臭を放つだけだった男が、温感のある人として見えるようになった時、彼もまた時代にいたぶられた一人にすぎないことに憐みの念が浮かびました。
  
強大な悪に見えた人物が、どんどんと小さくなって、最後には一人の哀れな人間に見えるという描かれ方は、スターウォーズのダースベーダーにも似ているかもしれませんね。
 
時代や場所がら的にも、大河ドラマの「真田丸」と一緒に楽しんでみてはいかがでしょうか?
 
 
(見習いブックソムリエ 島村瑞穂)