本の部屋Blog

【ブックレビュー#26】『教団X』中村文則 著

[ブックレビュー] 2016年05月31日
経典の様な分厚い本に、しっかりとした筆力で綴られた物語。
素直に「すごい」と思った。

物語は一見、冗長で卑猥で散漫に感じるかもしれません。
ミステリーだとか、サスペンスだとか、SFだとか、そういう括りで読み進めるとがっかりすると思います。

だけれどもこれは純文学なのです。
芥川龍之介の思わず「で?」と言いたくなるような筋書きの物語や、太宰治のうじうじとした物語、谷崎潤一郎の倒錯的な物語。
そういうものに免疫がなければ、途中で停滞する物語にうんざりするかもしれないし、あっさりとしたラストに拍子抜けするかもしれません。



「死をほのめかして姿を消した女性を探す」という主人公ごく個人的な用件から物語は始まります。
彼女の消息をたずねていくうちに宗教施設(のような場所)にたどり着いた主人公は、そこで「我々はなんなのか」「意識とは何か」「神はいるのか」「宇宙の成り立ち」といった深遠なテーマにふれることになり、やがて2つの宗教(のような物)と革命のムーブメントに飲み込まれてゆきます。

タイトル通り「宗教」が大きなテーマとなっていますが、語られるのは宗教であり、政治であり、科学でもあります。そこに数々の登場人物の物語が織り込まれていくのです。
我々が日常的に接しており、ともすれば忘れがちな世の中の醜い問題が描き出す物語は、読み手の思考に少なからぬ影響を与えることでしょう。私自身、読み終えてから、何気ない日常の1コマで、この物語が脳裏をかすめるという経験が何度かありました。

かなりグロテスクな作品で、誰しもにおすすめできるものではないけれど、アメリカ大統領が広島を訪れ、伊勢でサミットが開かれるこのタイミングに一読すると、読後には何かが変わって見えるかもしれません。


(見習いブックソムリエ島村)