本の部屋Blog

【読書にまつわるエトセトラ #5】ありがとう〆切!

[読書にまつわるエトセトラ] 2016年09月28日
〆切があるから頑張れる
「〆切」それは日常生活にしばしば現れる障壁。

突如目の前に降ってきて大慌てすることもあれば、遥か先の方にトンと降り立つこともある。
これも、まだまだ先だと思って油断していると、いつの間にか目の前に立ちふさがっていて大いに慌てたりする。
結局はどんな場合も大慌てするのだけは間違いない。

〆切間際の仕事に取り掛かりてみるも、出るのは妙案でも名文でもなく、うんうんという唸り声だけで、白い紙(もといディスプレイ)は一向に埋まらない。

 
世の文豪たちもこの苦しみは同じだったようで、「〆切」にまつわる様々なエピソードが彼らの手によって認められている。
そんな話ばかりを集めた本が発売された。
その名も『〆切本』。田山花袋、夏目漱石、島崎藤村、泉鏡花、志賀直哉、長谷川町子、江戸川乱歩、谷川俊太郎など、今は亡き人から今もある人まで、バラエティに富んだ人々が綴る〆切に対する苦悩や思い出がぎっしりと詰め込まれた一冊。
帯には「なぜか勇気がわいてくる。」とあるけれど、この辺りは個人差があるだろう。
ちなみに私は、〆切に苦しむ文豪に同調して鬱々としたりもした。

 
怠惰な私は趣味の習い事ですら、お稽古日の前夜に全くおさらいをしていない事に気付いて、布団の中で一夜漬けの謡いの練習を始めたりする。
お稽古場に行くと、子供に舞の稽古をつける師匠の「どれくらい練習してきたかは、稽古したらすぐにわかる」というセリフが鏡板に反射して、心にぐさりと突き刺さる。
そんなことだから、逃げたい気持ちにかられつつも、〆切がなかったら何もしない人間になるのではないかと、〆切のない世界を思い描いてぞっとする。


我々は〆切によって奮起する。
〆切がなかったら、私たちは『吾輩は猫である』も、『鉄腕アトム』も読むことができなかったかもしれない。
〆切バンザイ!ありがとう〆切!!

あ、なんだか勇気が湧いてきた。


『〆切本』左右社