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【ブックレビュー#13】『日本霊異記 今昔物語 宇治拾遺物語 発心集(池澤夏樹=個人編集日本文学全集08)』 伊藤比呂美 福永武彦 町田康 訳

[ブックレビュー] 2016年02月23日
これはけっこう近い話、OBPアカデミアに島村というスタッフがいた。

ある日、見学にやってきた人を案内すると、その人は文学全集の棚で立ち止まり、1冊の本を指さしていった。



「この本の宇治拾遺物語はヤバイですよ」

「そうなんですか?」

「傑作です」

そして、「ちょっと出しといたろ」と他の本よりも少しだけ背表紙を手前に引っ張った。

 

その後、その人は帰って行ったが、島村はくだんの本が気になってしようがない。読みたい、今すぐ読みたい。しかし、今は別に読むべき本がある。次の日になってもその思いは消えなかった。

 

それからしばらくして、ようやく手元の本を読み終えたので、島村は早速くだんの本を手に取った。初めの「日本霊異記」次の「今昔物語」も飛ばして、真っ先に「宇治拾遺物語」から読み始めた。

 

まず「序」があった、あまり堅苦しくない言葉で読みやすい文章だった。「お、読みやすいじゃん」と思いながら進んでいくと、古文ではお目に掛からない言葉にぶつかった。

「って感じで」

あれ?とは思ったが、あまり気にせず鼻歌まじりに読み進めた。そして物語が始まった。

  

一話目からすごかった。

「これはけっこう前のことだが(中略)業界でよいポジションについていた。(中略)ああそうなの。よかったじゃん、やったじゃん」

 

こんな調子の文章がずっと続くのである。衝撃だった。衝撃的過ぎて早く誰かに伝えたかった。目の前に母がいた。夜中なのに読むように勧めた。ページをめくって母は言った。

「なんじゃこりゃ」

 

『宇治拾遺物語』には、私たちのよく知る昔話の原型がたくさんあります。それだけでも親しみやすいのに、町田康の訳は、もはや古典の領域を超えた娯楽文学としての親しみがあります。訳者あとがきには「楽しかった」とありましたが、これだけ思い切ってやれば、そりゃあ楽しかろうと思うよりありません。町田康訳、古典文学全集の制作を希望します。

 

 (見習いブックソムリエ 島村)